健診や他院での検査で蛋白尿を指摘された方に、受診が必要な場合・精密検査の方法・考えられる原因・治療法や対処法などについてご説明します。

蛋白尿は腎臓病の危険信号であると同時に、腎臓病を早期発見するための大切な手がかりですので、以下の説明を参考に受診なさってください。

当院の腎臓内科について

蛋白尿が陽性(プラス)の場合は、必ず再検査を受けましょう

蛋白尿の再検査は、基本的には検尿検査です。必要に応じて血液検査も行います。

プラス・マイナスを確認する尿試験紙法検査は、数分以内にすぐ結果が分かります。

受診するべきか悩む方は、以下の解説も参考にしてまずは受診なさってください。

蛋白尿が(-)マイナスの場合

正常ですので問題ありません。

蛋白尿が(±)の場合

問題ない場合が多いですが、
以下の場合は必ず受診して再検査を受けましょう

  • 尿潜血も陽性
  • 2年(2回)連続で(±)
  • 高血圧症や糖尿病がある(疑いを含む)
  • 腎機能(クレアチニン・eGFR)に異常がある

蛋白尿が(+)(2+)(3+)(4+)の場合

蛋白尿が(+)以上の場合は
必ず再検査を受けましょう。

以下の場合は特に、早めに受診しましょう。

  • 強いむくみがある
  • 息切れがある
  • 血圧が急に高くなった
  • 血圧が以前から高い
  • 糖尿病がある(疑いを含む)
  • 腎機能(クレアチニン・eGFR)に異常がある

蛋白尿の重症度は定量検査(尿蛋白・クレアチニン比)で確認します

尿蛋白・クレアチニン比

蛋白尿の重症度は、1日(24時間)に排泄される尿蛋白量の合計(g/日)で評価します。

24時間蓄尿での測定がより正確ですが、外来での蓄尿検査は煩雑ですので、随時尿検体(紙コップに採尿した検体)で検査します。

「A:尿蛋白濃度(mg/dl)」
「B:尿中クレアチニン濃度(mg/dl)」

を測定し、

その比「A/B(g/gCr)」を
1日尿蛋白量の推定値として用います。

例えば、
尿蛋白・クレアチニン比が「0.3 g/gCr」の場合
1日尿蛋白排泄量が「0.3 g/日程度」と推定して病状を判断します。

<尿蛋白・クレアチニン比>

0.15 g/g未満:正常

0.5 g/gCr以上:高度蛋白尿

1.0 g/gCr以上:将来腎不全に至る可能性がより高く、より積極的な治療が必要

3.5g/gCr以上:ネフローゼ域の高度蛋白尿(血清アルブミン<3.0g/dlであればネフローゼ症候群)

尿蛋白・クレアチニン比と試験紙法の関係

1日尿蛋白量(*)試験紙法
での目安
正常0.15未満( - )~( ± )
軽度0.15~0.49( - )~( 2+ )
高度0.50~3.49(1+)~(3+)
ネフローゼ域3.5以上(3+)~(4+)

日本の尿試験紙は、
・尿蛋白(1+):30mg/dl
・尿蛋白(2+):100mg/dl
に統一されていますが、

尿試験紙法は「定性検査」であり、1日尿蛋白量と一対一の対応にはなりません。

より正確な評価のために定量検査(24時間蓄尿や尿蛋白・クレアチニン比)を行います。

尿アルブミン・クレアチニン比(ACR)

尿蛋白・クレアチニン比と同様に、

「A:尿アルブミン濃度(μg/dl)」
「B:尿中クレアチニン濃度(mg/dl)」

を測定し、

その比「A/B(mg/gCr)」を
1日尿中微量アルブミン量の推定値として用います。

尿中微量アルブミンは、尿試験紙法で尿蛋白が陽性になる前の段階から鋭敏に検出することができるため、早期の腎機能障害を発見するために有用な検査です。

ただし、日本の保険診療規則では、尿アルブミン検査は「糖尿病または糖尿病性早期腎症患者で微量アルブミン尿を疑う、糖尿病性腎症1期または2期の場合に、3ヶ月に1回を上限として測定可能」と定められているため、糖尿病が診断されていない患者さんでは尿アルブミン・クレアチニン比を測定することはできません。

しかし、糖尿病以外の疾患(腎硬化症や慢性腎炎症候群など)の場合は、尿試験紙法と、尿蛋白・クレアチニン比で十分な評価ができますので、ご安心ください。

蛋白尿の原因・腎機能が悪くなる蛋白尿と、悪くならない蛋白尿

生理的蛋白尿

起立性蛋白尿・運動性蛋白尿・熱性蛋白尿など、身体活動や全身状態により一時的に認める蛋白尿のことで、特に若年者の学校検尿での蛋白尿は生理的蛋白尿の頻度が高いため、学校検尿での蛋白尿では、随時尿に加えて早朝第一尿での再検査・尿タンパク定量検査を行います。

定量検査での尿蛋白量が少なく、生理的蛋白尿と判断した場合にも、軽症の糸球体腎炎が潜在している可能性は否定できないため、蛋白尿を指摘される度に再検査のため受診することが望ましいです。

起立性蛋白尿が成人以降に出現する可能性は低いため、成人で蛋白尿を指摘された場合は、以下に示すような一時的な蛋白尿の可能性を除外した上で、病的蛋白尿の可能性を慎重に検討します。

一時的な蛋白尿(例:膀胱炎)

「頻尿」や「排尿時の痛み」などの症状で受診された患者さんの検尿検査で

・尿蛋白:2+
・尿潜血:2+
・尿中白血球:2+

このような結果だった場合、急性膀胱炎と考え抗生剤治療を行います。

膀胱炎による炎症に伴って、「一時的な尿潜血」「一時的な蛋白尿」を認めることはよくありますが、初診患者さんの場合はこの「尿潜血」「蛋白尿」が膀胱炎による一時的なものなのか、膀胱炎症状が無いときもいつも出ているものなのかの判断がつきません。

そのため、定期的な健康診断を受診しているか、尿検査で異常を指摘されたことがないかを確認し、「普段は尿潜血は尿蛋白を認めていない」と確認できない場合は、膀胱炎症状が落ち着いた頃に再診していただいて、「膀胱炎の治癒により、尿潜血・蛋白尿が陰性化した」ことを確認します。

膀胱炎は女性では一般的な疾患ですが、IgA腎症などの慢性腎炎は若い女性にも多いものですので、膀胱炎診療の中でも「慢性腎炎を見逃していないか」ということを念頭に、尿検査結果をみています。

病的な蛋白尿

再検査でも蛋白尿の陽性が続く場合は、病的な蛋白尿が強く疑われます。また、慢性腎炎の場合、普段は蛋白尿が陰性な方で、時々蛋白尿を認めるようになり、いずれは持続的な蛋白尿に移行する場合があるため、再検査で陰性でも数ヶ月~半年ほどは時々、検尿検査に通っていただくようにいお願いする場合もあります。

<病的な蛋白尿>

1)腎臓の糸球体で血液を濾過して尿を産生する際に「蛋白尿が漏れ出る」
 例:糸球体腎炎・糖尿病性腎症など

2)腎臓の尿細管で、原尿中の蛋白の再吸収が低下する場合
 例:尿細管間質性腎炎など

3)腎臓以外の場所で、特定の蛋白質が異常産生され、尿細管で再吸収しきれなくなる
 例:多発性骨髄腫など

病的な蛋白尿は、蛋白尿の発生機序により上記に大別され、持続的な蛋白尿、あるいは間歇的でも高度な蛋白尿を認める場合は、将来的に腎機能が低下して末期腎不全に至る可能性が高かったり、原因疾患自体が全身に重篤な症状をもたらす場合があるため、詳細な血液検査・尿検査などから鑑別診断を進めます。

既往歴・合併症・病歴や症状・蛋白尿以外の検査所見を参考に、必要な血液検査・尿検査を行います。

疑われる病態により、まず降圧治療を行って尿蛋白が減少するか確認する場合もあれば、直ちに腎生検検査や骨髄検査などの精密検査を、総合病院へご相談する場合があります。

尿蛋白量と末期腎不全の発症率

日本腎臓病学会のガイドラインでも以前から引用されているグラフです。

検診時の蛋白尿が強いほど、将来的に透析治療を要するようなESRD(末期腎不全)に至る可能性が高くなります。

蛋白尿(1+)以上の方は特に、腎臓内科を受診してください。


▲:尿蛋白(3+)
〇:尿蛋白(2+)
△:尿蛋白(1+)
◇:尿蛋白(±)
◆:尿蛋白(ー)

Proteinuria and the risk of developing end-stage renal disease, Kidney Int. 2003 ; 63: 1468-74.

蛋白尿と糖尿病・高血圧症の関係

糖尿病は、透析導入の原因疾患の大半を占めていますので、糖尿病患者さんは血糖検査に加えて、尿検査が重要です。

微量アルブミン尿が出現しだした段階で積極的な治療を行って、アルブミン尿の消失を目指すことで、末期腎不全に至る危険性が大きく低下します。

高血圧も、腎硬化症による蛋白尿を認めている場合は、積極的な降圧治療を行って、尿蛋白量の減少・蛋白尿の消失を目指すことが重要です。

他院から転医された方で、尿蛋白(1+)~(2+)が何年も持続されており「血圧の薬をずっともらっているけど、血圧はこれ以上下がらない」と言う方が時折おられますが、減塩・降圧剤の調整を進めることで、蛋白尿の消失が得られることも多々あります。

蛋白尿を指摘されている糖尿病患者さん・高血圧症患者さんは一度、腎臓内科を受診なさってください。